~悩みを抱えている方へ、仏教からのメッセージ~
「こころに向き合う」は大本山永平寺別院『別院だより』に掲載されたものです。(2013年~2020年)
自分とは違う人生を歩んできた相手を理解し、認めるためには、相手の立場に立って考えるということが大切になります。相手の立場に立って、相手と心を同じくしていくことを仏教では「同事行(どうじぎょう)」といいます。
お釈迦(しゃか)様は、一人ひとりを見れば違う存在に見えるけれども、いのちの視点で見れば、すべて同じいのちであり、お互いに関わり合いながら生きている存在であると説かれました。だからこそ、自分のことばかり相手に押し付けるのではなく、同事行が大切だと説かれたのです。
同事行をするためには、まず、自分自身の考えや思いを離れなければなりません。自分の考えに固執している限り、自分と相手の違いばかり見えてきて、相手と心を同じくしていくことはできません。
次に相手と一緒に活動をしたり、対話をしたりすることで、相手を理解しようと心がけることです。ともに喜び、ともに悲しむということを経験し、相手と深く関わっていくことで、少しずつ相手のことがわかってきます。
ただし、相手のことをすべて理解することはできません。私たちは「わかったつもりにしかなれない」ことも知っておくべきです。例えば、初めてみる食べ物があったとします。その食べ物について説明をするときに、私たちは自分が今までに食べたことのあるものの中から一番似ているものを探し出し、「まるで○○のようだ」と表現します。しかし、わかったのは似た食べ物のことであり、目の前の食べ物そのものではありません。
相手の話や経験も、私の経験したことのない、初めて見聞きするものです。わかったつもりにしかなれないからこそ、相手を理解しようと心がけ、相手の立場に立って、心を同じくしていく努力をすることが大切になるのです。
自分の思いを離れ、同事行を繰り返していく中で、相手も自分と同じように、多くの人と関わりながら共に生きている存在であることが見えてきます。そして、お釈迦様が説かれるように「自と他は違うけど同じ(自他同事 じたどうじ)」ということに気づくことができれば、自他の枠を超えた、大自然やすべてのいのちとのつながりの中に生きる大いなる自己という、お釈迦様の悟りに近づくことができます。
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